TR-909開発はまさかの…

配信日 2018・07・13

おはようございます、坪井佳織です。
本日は、TR-909を開発されたレジェンド、星合厚さんインタビューの続編をお送りします。

さてさて、星合さんがローランドに入社されたのは1982年。

第1プロダクト(TR-808やTB-303、SYSTEM-100Mを作った部署)に配属となり、3ヶ月ほど製造ラインで不良品の修理などを経験したのち、いきなり!いきなりですよ、新製品TR-909のデジタル回路とプログラム開発担当に大抜擢されたそうです。

しかも、TR-909の主な開発メンバーは、アナログ回路担当の先輩(入社7年目)と、星合さんの2人だけ!

「ビビったり、不安に思ったりしなかったんですか?」と聞いたら、「う~~ん、まぁ、やればできるだろうって思ったんですよ~(ニコニコ)」。

1980年、のちに「やおや」と呼ばれるTR-808が発売された2年後、発表されたばかりのMIDI規格を搭載し、よりリアルなサウンドを目指して企画されたのがTR-909でした。

この頃、「Linn Drum(リンドラム)」の登場により、世間ではPCM音源(サンプリングしたリアルなサウンド)が注目されつつありました。

…が、当時の技術ではピッチを変えるぐらいしかできなかったため、「音づくりこそシンセ」という考えのローランド社内では「PCM音源は邪道!」と言われ、最初はアナログ音源のみで開発していたそうです。

ところが、開発の途中で、「どうしても納得のいくシンバルのメタリック感が出ない」ということで…、

なんと!!

急遽、シンバル(金物)だけPCM音源にしたハイブリッド方式に仕様変更することになったのです!!!

こうして、アナログ回路担当の先輩と、デジタル回路担当の新入社員、星合さん、ほぼほぼ2人だけのTR-909開発は、ドラマチックに始まりました。

もうなんか、映画みたいです。

高校のころからドラマーだった星合さんは、普段使っていたお気に入りの組み合わせ=上は PAiSTe、下は Zildjianというハイハットをサンプリングに使用することにしました。それが一番いい音だと思っていたからです。

なにせ2人ですから。
つか、金物はひとりですから。
自分がいい音だと思えばそれでGO!ですよ。
そして歴史は作られたわけですよ。

ちなみにサンプリングデータは6ビットだったそうです。(コレ書いていいのかな…、ま、いっか、そう言ってたしな)

こちらが、実際にTR-909の元になったシンバルとハイハットです。

今でも星合さんのライブで活躍中!

当時、社内に録音もできるようなスタジオがあったのですが、どうも音が気に入らない。

そこで、みんなが退社したあとに「どこか良い音のする場所はないかな~?」とウロウロし、最終的に普通の部屋で事務デスクの横で録音したそうですよ。

もう一度言います、この良い音を求めて深夜の社内をウロつく人、新入社員ですから。

で、試作機に音源を搭載してみたところ、「自分がボタンを押して遅いと感じるのはしょうがないとしても、他の人が押してるのを見ても遅れてるって思ったんですよね~。それで、音の立ち上がりの問題ではないかと思って、波形を加工することにしたんです」。

でも、当時はまともなパソコンが市販されていない時代だったので、自作のマイコン(OSはCP/M-80)で加工したそうです、新入社員が。

まるで昨日のことみたいに楽しそうに開発秘話を教えてくださったので、締めくくりに、そんな愛着ある機種がどうなったのか、最も気になるであろう市場の反応について聞きました。

「で、どうだったんですか?売れたんですか?」

「さぁ…?
一応、1万台作って出荷したみたいだけどね〜」

いや、もちろん、ローランド的にはデータはあるはずだから調べれば分かるんですけど、星合さんにとってはどうでもいいみたい。

「売れるかどうか気になってないってことは、何をモチベーションにして作ったんですか?」

「うん、『いい音作ろう』って思ってた!」

…!!!

…ありがとうございます(じ〜ん)。
売れたの?とか言ってすみませんでした。

ちなみに、TR-909の型番は、TR-880→TR-880D(デジタルが加わったから)→TR-909D→TR-909に落ち着いたんですって。今となっては909としか思えないですよね。

これからも全力でゆるい楽屋ばなしをお届けしてまいります!

ライター・プロフィール

楽屋の人:坪井佳織 (つぼい かおり)

電子ピアノや自動伴奏の開発に携わっていた元ローランド社員。現在、本社近くでリトミックを教えています。元社員ならではの、外でも中でもない、ゆるい視点でメルマガを執筆しています。どうぞよろしくお願いします。

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